鬼の子のくせに泣くんじゃねぇッ!
頭領の怒鳴り声が頭の奥で響いて、慌てて袖で強く擦った。ぎゅっと唇を噛み締めてこらえる。
その時、小さくて柔らかい何かが自分の頭をぽふぽふと叩いた。驚いて顔を上げるとミコトが手を伸ばしていた。
「なに、してるの」
「みことがないてるとき、ママがいつもこうしてくれるの」
「……おれ、もう泣かない」
「どうして? かなしいときは ないていいんだよ?」
ミコトの大きな瞳が自分を覗き込む。
「でもけいこのとき、おかしらが泣くんじゃねぇって」
「ケイコってなに?」
「けいこは……れんしゅうのこと」
ふむ、と少し大人ぶった顔をしたミコトはもう一度俺の頭をぽふぽふと撫でた。
「みこともなわとびのれんしゅうで、できなくて泣いちゃうの。でもママがね、いつもはおこるのに、いっぱい泣いていいよっていうの」
「いつもはおこるのに……?」
へんだよねぇ、と肩を竦めで笑ったミコトは続けた。
「れんしゅうのときになみだが出るのは、がんばりたいからなんだって。がんばりたい《《なみだ》》は、かっこういい《《なみだ》》なんだよ」
かっこういいなみだ?
泣くやつなんてヘタレの甘えただっておかしらはいってたのに。泣くのは良くないって。男なら鬼の子なら次期頭領なら、ぐっと堪えて我慢しろって。



