早く戻らないともっと痛い拳骨をくらうことになる。遅くなればなるほど怒られる。分かっているはずなのに立ち上がれなくていっそう縮こまる。

ぎゅっと唇を結んで顔を上げたその時、じっとこちらを見つめる丸い目と目が合った。

驚いて涙は引っ込んだ。梯子から半分だけ頭を出したその子は、ぱちぱちと何度か目を瞬かせる。そして。


「だいじょうぶ?」


里の鶏舎で生まれたばかりのひよこみたいな声でそう問いかけた。

自分が答えるよりも先に、その子は小さな体を目一杯に使って展望台によじ登ってきた。小花柄の桃色の甚平を着ていたので女の子なのだとわかった。飴玉の包み紙みたいな二つ結びの髪がひょこひょこと跳ねている。

うんしょ、とハシゴを登りきった女の子は這うように自分の前に進んでくるとちょこんと座り込んで首をひねる。


「どうして泣いてるの? かなしいの?」


匂いで人の子なのだと分かった。歳の近い人の子は初めてで戸惑いで言葉が出てこない。

反応のない自分に、女の子は困った顔をして俯いた。そして自分の膝にある擦り傷に気付いたらしい。あ、と声を上げてそこを指さした。


「これいたいから、なみだ出るの?」


主な理由はそうでは無いのだけれど、言われたことで急にまた痛み出した。


「……いたい」


そう答えると女の子は、にっこり笑って自分の胸をトンと叩く。