そんなある日。ある夏の日の夕暮れ時だった。突然、稽古中に涙が止まらなくなった。お頭はいつもの事かという顔で、「メソメソ泣くんじゃねぇ!」と拳骨を落とした。
気が付けば逃げるように稽古場を飛び出していた。
たどり着いたのは稽古が始まる前によく里の友人たちと登って遊んでいた古い物見櫓だ。よじ登って展望台に立つと隠れるように身を潜める。
ぎゅっと膝を抱きしめると、思い出したかのようにこれまでの稽古でできた傷がずきずきと痛いみだした。
八瀬童子の頭領なんてどうでもいい。別になりたいだなんて思っていない。稽古がつらい。友達と遊びたい。両親と過ごしたい。
ずっと頭領にそう言いたかったのだと気付いた。
誰かの前に立つのは好きじゃない。先陣をきるのも苦手だし、頭領みたいに誰からも好かれるような性格じゃないのは自分がいちばん分かっている。
今年産まれたばかりの鬼子は生まれながらにしてかなり強い妖力を持ち合わせているらしい。おそらく修行を続ければいずれは俺と並ぶか、それ以上の力を身につけるだろうと皆が囁いた。
だったら鬼子が頭領になればいい。
そう思った。



