それにしても一度八瀬童子の里に来たことがあるなんて。一体いつ?
鬼市くんにもう一度写真を見せて貰った。おそらく写真に移る私は二、三歳歳くらいだろう。つまりまだ両親が生きていた頃だ。
必死に記憶を辿り行き着いたのは、行ったという事実だけお兄ちゃんから聞いて知っている京都への家族旅行だ。
お母さんたちが急遽京都へ出張に行くことが決まって、幼い私たちを置いて行くこともできず「旅行がてら皆で行くか」というお父さんの提案で決まったんだとか。
ああそうだ、なんだか思い出してきた気がする。両親が仕事でいない夕方から夜中の間、私とお兄ちゃんはよそのお家に預けられていた。
お兄ちゃんは仲良くなったその家の子と遊びに出かけて、私はまだ小さかったから家で遊ぶように言われたんだ。
そう、そうだ。初めのうちは大人しく遊んでいたけれどすぐに退屈になって、お家の人の目を盗んで家を飛び出したんだ。
初めて野生のリスを見つけて、嬉しくなって追いかけているうちに山の上の方まで登ってしまって、それで────。
「あの日巫寿と出会ってなかったら、今の俺はいなかったと思う」
鬼市くんは優しい目をして里を見下ろした。



