綺麗な景色にため息をこぼすよりも先に、胸の中を占めた「懐かしい」という感情に首を捻る。
麓に広がる八瀬童子の里を見下ろす。途中でも感じた一度訪れたことがあるような親しみを強く覚える。
前に来た時はたしか、もっと緑の匂いが濃くて葉の青い時期だった。
「ねぇ鬼市くん……やっぱり私一度ここへ来たことがある気がする」
「ああ。ある」
そんな返事に目を丸くして振り返ると、鬼市くんはおもむろにポッケに手を入れて手のひらサイズの1枚の紙を私に差し出した。
色あせた写真だった。満面の笑みで二本指を立てる小さな女の子と無表情の小さな男の子。どこかの社の前で取られたのだろうか、写真のすみに狛犬が写っている。
小さな女の子は間違いなく幼い頃の私だ。そして隣の男の子はおそらく────。
「私と鬼市くんって……小さい頃に会ったことがあるの?」
鬼市くんはその問いかけに嬉しそうに目を細めた。
「俺は鮮明に覚えてるのに、巫寿が全然覚えてないからちょっとショックだった」
やっぱりそうなんだ。景色に見覚えがあったのは、昔一度ここへ来たことがあるから。そしてその時に私は鬼市くんと出会っていた。
思い返せば一年の三学期に神社実習で会った時、私は鬼市くんに「初めまして」と挨拶した記憶がある。私のことを覚えている鬼市くんからしたらかなり切ない気持ちになったかもしれない。
「ご、ごめん。全然覚えてなくて」
「いや。俺も小さい時の思い出は、巫寿と遊んだ時のことくらいしか覚えてないし仕方ない」
そう言って貰えると非常にありがたい。
ホッと息を吐く。



