雑談しながら緩やかな坂道を20分くらい登ると、視界の開けた広場のようなところに出た。道と広場の境界には色褪せ古びた鳥居が立っている。
恐らくここが麓に移る前の社が建っていた場所なんだろう。
鬼市くんは私をここに連れてきたかったんだろうか?
「こっち」
鬼市くんは広場を逸れて森の中へ入っていく。
また迷うことない足取りで進んで言った先に、木材を簡易的に組み重ねた小さな塔のような建物が現れる。
茅葺き屋根でその下は展望台のように開けた空間があり、地面からハシゴがかけられていた。
「これ……櫓だよね?」
「ああ。昔見張りように使われてた物見櫓。本殿と一緒に下に建て直して、こっちは火事の影響がなかったからそのままなんだ」
そう答えると鬼市くんは櫓を指さした。
「高いとこ平気か」
「え……まさか登るの?」
「登る」
ごくりと唾を飲み込み櫓を見上げる。
ひゅうと風がふきぬけて柱の至る所が悲鳴のような軋む音を立てた。
「大丈夫、ハシゴの足場が抜けたの一回だけだから」
「一回抜けてるって聞いて安心はできないかな……」
むしろその情報を聞かなかった方が不安は少なかったかもしれない。
思わずそう突っ込むと鬼市くんは「あ」と小さく声を上げる。失言だったと気付いたらしい。
視線を彷徨わせたあと、私の顔色を伺う。



