所々で視界が開けて山の麓を見下ろせた。稲刈りが終わった後の色あせた田んぼと赤く色づいた木々が里を彩ってとても美しい。
ふと強い既視感を覚えて首を捻る。一瞬込み上げたのは間違いなく懐かしいという感情だった。
「巫寿? 大丈夫か?」
景色に気を取られていたせいでいつの間にか距離が開いていた。
足を止めた鬼市くんが振り返って手を挙げている。
「もう少し登るけど平気か」
「あ、うん。平気だよ」
「辛いなら担ぐけど」
「あはは、大丈夫だよ」
鬼市くんは普段から表情があまり変わらないのもあって冗談ですら本気に聞こえる。
遅れを取り戻すために小走りで坂を駆け上がった。



