薫先生は学生時代、嬉々先生と同級生だったと聞いている。ただのクラスメイトではなく親友だったという事も。そしてその親友はもうひとりいる。同級生でクラスメイト、良きライバルで親友だった人。
前に薫先生が私達に話してくれたことがある。
『敵しかいないこの世界で唯一俺のことを心の底から愛してくれた人。俺が強くなるきっかけになった人。────俺が、この世で一番殺したい人なんだ』
言祝ぎのみを持って生まれた薫先生の双子の兄、神々廻芽。
去年の出来事が一気に脳裏を過った。
初めて会ったのはゴールデンウイーク、お兄ちゃんのお見舞いに行った帰り道の交差点で信号待ちをしている時に話しかけられた。二度目は夏休みの最終日、鬼脈で買い物をしている時にまた声をかけられた。そして三度目が二学期奉納祭のあの日、神修の敷地内で私達の前に現れた。
その少し前まで、神修では応声虫と呼ばれる怪虫によって学生達の声が奪われて、心肺停止に陥るほど重篤な症状がでた学生も出ていた。芽さんが現れたのはやっと被害が落ち着き始めたそんな頃だった。
「芽から応声虫を受け取った生徒の話だと、二学期が始まる前に「めずらしいカブトムシの幼虫」だって言われて渡されたらしい。芽本人の発言から裏も取れてる」
「まさか神修の学生を利用するとは……狙いは本庁だけじゃなかったのか?」