言祝ぎの子 陸 ー国立神役修詞高等学校ー


どうせ隣に立って舞うだけですよね、だったら当日まで一人で練習します。

祈願祭で舞を奉納することに決まり鬼子ちゃんにその事を話しに行くと、参加は了承したものの舞の稽古は断られてしまった。

確かに月兎(げっと)の舞のように手を取り合ったり息を合わせる必要はないので、何日も日程を合わせて練習する必要はないのだけれど、本当にそれでいいのかは少し疑問だった。

まあでも恵衣くんの笛は録音された音を聞いているのかと思うほどに正確なので、音を気にする必要もない。

という訳で私と鬼子ちゃんが隣に並んで舞うのは今日が初めてだ。


奉納するのは悠久(ゆうきゅう)の舞。悠久の舞の歴史は意外と浅く、昭和に作舞された神楽舞だ。悠久とは「果てしなく続く」という意味があり、平和が長く続くようにという祈りが込められた ている。

今回の祈願祭にぴったりな演目だ。


「ほら。本番もこれだから握り潰すなよ」


恵衣くんが菊の花束を差し出す。

浦安の舞が巫女鈴を手に持って舞うのに対し、悠久の舞は秋の舞なので菊の花を持つ。黄色い花が舞台に映えて華やかなのに凛とした印象がある。

お礼を伝えながらそっと胸の前で受け取った。


鬼子ちゃんと並んで舞台の上に立つと、最前列に座った子供たちが瞳をきらきらさせながら手を叩く。

恵衣くんの音をよく聞いて、落ち着いていつも通りやろう。

ふぅ、と深く息を吐いた。