「鬼子ちゃんが、大人しくするなら見ててもええって」
「巫寿ちゃんも鬼子ちゃんの舞見に来たん?」
「鬼子ちゃんの舞は里で一番なんやで!」
なるほど、鬼子ちゃんの巫女舞の練習を見学しているのか。
一人の女の子にくいくいと袖を引かれて屈んだ。口元を隠したその子は私の耳に顔をちかづける。
あのお兄ちゃんめっちゃ怖いからうるさくしたらあかんよ、そう言って指さした先には横笛を構えて黙々と練習に励む恵衣くんが座っていた。
思わず吹き出しそうになったのを何とか堪えてその子の頭を軽く撫でると、恵衣くんたちに歩み寄った。
「ごめん、お待たせ」
「別にあなたの事なんて誰も待ってません」
間髪入れず背中でそう返した鬼子ちゃんに頬を引き攣らせる。
どうしてそんなトゲのある言い方しかできないんだろう。それにどっちかって言えば今のは恵衣くんに向けて言ったつもりなのに。
落ち着け落ち着け、と心の中で繰り返し「そっか」と笑う。貴重な練習時間なんだからつまらない喧嘩で無駄にしちゃダメだ。
一通り自分の練習が終わったらしく恵衣くんが顔を上げる。
「すぐにできんのか────って、何お前変な顔してんだよ」
恵衣くんに指摘され上手く笑顔が作れていなかったことに気付く。恵衣くんが指摘するくらいだからよっぽど妙な顔をしていたんだろう。
神聖な神事に私情を挟むのはよくない。神様を楽しませるための舞なのだから、邪念は払わなきゃ。
「何でもない」と答え、頬を叩き気合いを入れ直した。



