荷物を運び終えた後、練習のために少しの間抜けることをみんなに伝えて回って神楽殿へやってきた。
入口の引き戸の傍にある下駄箱には雪駄がふたつ並んでいる。恵衣くんだけかと思っていたけれど、どうやらもう一人いるらしい。
よく確認すると私と同じかかとに神修の校章がはいっている指定の雪駄と、鞍馬の神修のもので、中にいる人物を思い浮かべて心は一気に曇り空、どんよりと重くなる。
ため息を何とか飲み込んで一礼し中へ足を踏み入れる。
「あっ、巫寿ちゃんや!」
「巫寿ちゃ〜ん!」
賑やかな声がしたかと思うと、どたどた遠くから走ってきた子供たちによってあっという間に囲まれる。八瀬童子の里に通うようになって仲良くなった庇翼院の子供たちだ。
思い返せば靴箱の下段には小さな下駄がいくつかあった。
「みんなこんばんは。どうして神楽殿に?」
「違うで巫寿ちゃん! いい月夜ですね!」
「そうや! いい月夜ですね、やで!」
そうだった、と肩をすくめる。幽世での挨拶は「こんばんは」ではなく「いい月夜ですね」が好まれる。
いい月夜ですね、と言い直しもう一度尋ねると子供たちは興奮気味に振り向いて指をさす。
視線を向けるとこちらに背を向けて悠久の舞を練習する鬼子ちゃんの姿がある。



