連日分厚い雲に覆われていた昨日までが嘘のような晴れた夕暮れの空に、八瀬童子の紋の入った提灯が揺れる。もう数時間もすれば、提灯に火が灯るだろう。


「おらおらガキ共! タダでうちの本殿を使わせてもらえるなんて思うなよ、さあ働け!」

「人遣い荒すぎだろ鬼三郎(きさぶろう)さんッ!」


ガバガバと笑いつつ自分も忙しそうに走って消えていった鬼三郎さんの背中に、慶賀くんがそう叫んだ。

叫ぶ元気があるならこれ運んでください、巫女頭に追加の箱を渡された慶賀くんはグエッと叫んでその場に崩れる。


「おい慶賀、潰れる前にそれ運べよ!」

「潰れる暇あるなら動いてよね!」


無慈悲な泰紀くんたちの怒号にしくしく涙しながら立ち上がった背中には悲愴感が漂う。可哀想ではあるけれど仕事はまだまだあるので、早く立ち上がってくれた方がありがたい。

涙目の慶賀くんと目が合ったので、頑張って!と声をかけて社務所を飛び出した。

絶好のお祭り日和で迎えた八瀬童子の里の新嘗祭(にいなめさい)。私たちは金曜日から里に泊まり込み、祭りの準備を手伝っていた。


「巫寿、すまん一個持ってくれ」


三つ重ねたダンボールを持って倉庫から現れた鬼市くんに「わっ」と悲鳴をあげる。慌ててひとつ受け取ると、なかなかずっしりしていた。ダンボールの影から鬼市くんの顔が現れた。


「危ないって鬼市くん……! 誰かとぶつかったら大惨事だよ」

「悪い。重さ的には問題なかったから持ち上げたら、不覚にも視界をやられた」


視界をやられたって大袈裟な。

くすくす笑いながら並んで歩き出した。