社務所に顔を出すと夜勤の神職さまが「あれ?」と私を見る。
「どうしたんですか、巫寿さん」
「スマホを忘れてきたみたいで」
「そうですか。酔っぱらい共に捕まらないように、すぐに部屋に戻るんですよ」
禄輪さんたちはまだ酒盛りしているらしい。小さく笑って「はぁい」と答えた。
座敷を目指して軋む廊下を歩いていると、僅かに開いた障子の隙間から声が漏れてきた。楽しげな声とは言い難い、どこか潜められた低い声だった。
真面目な話でもしているのだろうか。だったらもう少し後にした方がいいか。
話し合いの邪魔にならないよう足音を立てずにそっと歩み寄る。少しだけ様子を伺ってから顔を出そうと耳をそばだてた。
「芽が神修に現れたのは何のためだ? 話をしてないのか薫」
神職さまの一人がそういった。唐突に出てきた「芽」という単語に目を見開く。
「話したけど相変わらず意味不明だったよ。ていうか俺より先に駆け付けた嬉々の方が何か話したんじゃないの?」
「お前ら馬鹿どもの話は要領を得ん」
「あはは、一緒にしないでよ」
薫先生の声色に若干の親しみが籠る。嬉々先生とのやりとりもどこか幼くて気楽そうだ。