「音源のことなんだけど、恵衣くんにお願いしたらどうかと思って。恵衣くんは笛が得意だから」


実は皆で祈願祭をしようと言う話になった時から、巫女舞を提案しようと考えていた。音源を用意しなければいけないな、と考えたところで恵衣くんが神話舞の楽人の部で龍笛の奏者に選ばれていたことを思い出して連絡しておいたのだ。


「したら曲は恵衣に任せるか。ほんなら次に────」


早速次の話題に移った皆。どうやら説明は私に任せるということらしい。

苦い顔を浮かべて私に歩み寄ってきた恵衣くんは、隣の空いたベンチに座って息を吐いた。


「……どういう事だ」

「急に呼び付けてごめん。実は皆で祈願祭をしようって話があって、恵衣くんに龍笛を」

「おい、ちょっと待て」


そう割って入ったのは鬼市くんだった。

一瞬不機嫌な視線を向けた恵衣は「何だよ」と顔を逸らす。


「お前、何しれっと巫寿の隣に座ってるんだよ。ずるいぞ」


何の話をしているのかが分からず固まり、その数秒後に理解した瞬間、ボワッと顔の熱が上がる。

ヒュウッと誰かが唇を鳴らしたことで、一気にみんなの瞳が好奇心でギラギラと輝いた。

瞬く間に眉を釣りあげた恵衣くんが「はァ!?」と勢いよく立ち上がった。


「他にもベンチは空いてただろ。慶賀と泰紀の間とか。何でわざわざ巫寿の隣に座るんだよ」