広間は子供たちがいて騒がしく階段を昇って教室に戻るのも面倒だったので、文殿に移動した私たち。
自習している人達がチラホラ居たので、雑談しても迷惑にならないように人気のない百科事典コーナーの床に座り込んだ。
「ほんで、急に祈願祭て何やねん」
信乃くんは膝の上に頬杖をついた。
祈願祭、その名の通り御祈願を祝詞にして神職が御祭神に奏上する神事だ。色んな種類の祈願祭があって、安産祈願や事業成功など挙げていくとキリがない。
「平和祈願祭をやりたい」
すぐに鬼市くんが何を言いたいのか察した皆は、なるほどなと深く頷いた。
平和祈願祭、泰平を祈る神事だ。
「八瀬童子族はまだ何も起きていないが、他の鬼一族では戦が始まっているところもある。八瀬童子がいつまでも安全とは限らない」
私たちの知っているところだけでも、今幽世では八つの一族が争いあっている。
鬼市くんの言う通り、いつ他の一族同士で戦が起きてもおかしくない状況だ。
「お頭は俺や鬼子に、もし八瀬童子族でも戦が始まっても里に戻ってこないように言ってる。言い分は分かる、里が潰れても次の頭領さえいれば一族は建て直せるからな」
そういう事だったんだ、と来光くんが眼鏡の奥の瞳を細めた。
鞍馬の神修にいる学生たちの中には、故郷の里で戦が始まってしまった一族の子供もいる。どの一族の子も一概に頭領から「里には戻ってくるな」と言われていた。



