部屋に戻ると薫先生にも釘を刺された夏休みの宿題に取りかかった。

最終日に慌てて終わらせる性格ようなではないけれど、早いうちからコツコツ進めておくに越したことはない。

うんうんと唸りながら一時間くらい取り組んだ所で「今何時だろう?」とスマホを探す。

普段なら部屋に戻るとすぐに充電器に繋げるはずなのに、コードにも繋がっていなければテーブルの上にも置いていない。

部屋の中で心当たりのあるところを探し回ったけれど見つからず、宴会をした社務所の奥にある座敷で最後に触った事を思い出す。

明日も朝は早い。アラームなしでは起きられない。となると……取りに行くしかないか。

ひとつ息を吐き、重たい腰を上げて部屋を抜け出した。


雪駄に履き替えて社頭に出た。

お祭りが近いので屋台の設営に勤しむ妖達が多い。参道を横切っていると「良い月夜ですね」と声をかけられた。妖たちの世界では「こんにちは」の代わりにそう挨拶する。

途中で知り合いにもあった。神修の校舎があるまねきの社でよく駄菓子の屋台をだしている青女房(あおにょうぼう)と呼ばれる妖だ。女官姿の妖で、笑うとお歯黒がニィッと見える。気風のいい子供好きな妖だ。

挨拶するとぼさぼさになるまで撫で回されて、両手いっぱいにお土産を渡された。そんなつもりじゃなかったんだけどな、と思いつつありがたく頂戴し屋台を後にした。