「信乃が抱いてる小等部のあの子、羅刹(らせつ)族の次期頭領なんだって」


来光くんが眼鏡の奥の目を憐れむように細めた。

羅刹族といえば、鬼の中でもとりわけ力の強い鬼一族だ。通力と呼ばれる何事も自由自在にできる特殊な力を持っている。

確かこっちの現国の先生も、羅刹族だったはず────。


そこまで思い出してハッと息を飲んだ。

羅刹族の先生が担当する授業が突然の休講、泣きじゃくる羅刹族の子供、廊下ですれ違った先生たちの会話、全てが繋がる。


「相手は」


私よりも先に恵衣くんが険しい表情で口を開いた。


鉄鼠(てっそ)頼豪鼠(らいごうねずみ)族だ。ほんの数時間前に羅刹族の里へ奇襲したらしい」


頼豪鼠族はネズミの妖・鉄鼠の一族で、平安時代の僧侶頼豪(らいごう)の怨霊が鉄鼠になったことで生まれた妖一族だ。僧侶にルーツがあるため頼豪鼠族の鉄鼠たちも通力が使え、呪術にも秀でている。

つまり、また戦が始まったんだ。


「父さんがぼくに、絶対に帰ってくるなって文鳥(ふみどり)を送ってきたの……ッ!」


羅刹族の男の子が絞り出すようにそう叫ぶ。


「母さんも友達も、皆里にいるのにッ……ぼくだって皆を守りたいのに……!」


悲痛な叫びに胸がぎゅっと締め付けられる。

鞍馬の神修に通う妖は、時期頭領か頭領候補の子供たちだ。あやかしの子供たちの多くは里の学び舎で学ぶ。