『あのおデブちゃんには蠱毒を使って松山来光を殺させるつもりやったんよ。やけどあのおデブちゃん、全然そんな度胸ないんやもん』

『なんで来光くんを……』

『なんでやと思う? 椎名巫寿さん』


彼女は昔からの知り合いのように私の名前を呼んだ。


『これから起きることぜーんぶ、あんたのせいやで? ほんま楽しみやなぁ』


そうだ、そうだった。あの女の妖は確かに私に向かってそう言った。どうしてこんなに重要なことを忘れていたんだろう。


「"これから起きること全部お前のせい"、つまり何らかの狙いはお前にあるってことだろ。妙だと思ったからその日のうちに薫先生へ伝えておいた」

「さ、流石です……」


抜かりなさすぎてもう何も言えない。


「だからお前からは何も言わなくていい」

「なる、ほど。そういう事だったんだね」


恵衣くんは返事の代わりにふんと鼻を鳴らした。

薫先生にも伝わっているならもう何も心配することはないだろう。それにしても同い年だとは思えないほどの視野の広さだ。私にも分けて欲しい。


「……薫先生に頼まれたからお前のこと普段より気にかけるようにしてるし、蛇に睨まれた兎みたいに情けない顔するな」

「ふふ。蛇に睨まれた兎って。蛙じゃないの?」

「蛙でいいのか」


自分の顔を蛙と兎の身体に当てはめる。どっちもなかなか気持ち悪いけれど、兎の方が幾分かましな気がする。


「……兎でお願いします」