「────ほら」
連れてこられたのは屋外演習場裏にある休憩スペースだ。ベンチと自動販売機が1台ずつあって、ラインナップがかなり微妙なので学生はほとんど利用していない。
恵衣くんは私にベンチに座るよう促すと、その微妙なラインナップの中から一番まともな「北欧の天然水」を買って私に差し出した。
ありがたく受けとって口に含む。冷たさが少しずつ冷静さを取り戻してくれる。
まだお礼を言っていないことに気付き「ありがとう」と恵衣くんを見上げる。相変わらず不機嫌そうな顔をした恵衣くんはふんと息を吐くと私の隣に座る。
丁度授業の開始を知らせる鐘がなる。あっと声を漏らした。
「ごめん恵衣くん……! 気にせず先に戻って」
「今から戻ったところで遅刻に変わりないだろ。三馬鹿のメガネに連絡しておいたから問題ない」
抜かりないところは流石だけれど、三馬鹿のメガネって。来光くんが聞けば眉を釣りあげて怒り狂うだろう。
「……で、何だよ」
私とは真逆の方向に顔を逸らした恵衣くんがぶっきらぼうにそう尋ねる。
「あ、いや、何でも」
「そういうの時間の無駄なんだよ。そんなに青い顔して何でもないわけないだろ馬鹿か。いいからさっさと答えろ」
恵衣くんらしい効率重視な考え方に苦笑いだ。
それにしてもそんなに酷い顔色だったんだろうか。他のみんなは「変な顔」としか言っていなかったのに。



