「巫寿?」
「どうした?」
「なに変な顔してんだよ」


みんなが私のことを見ている。

まだこれはただの私の憶測だ。それにみんなに相談するとしても、"裏切り者"がどこかにいるかもしれないこの状況で場所を選ばず口を開くのはあまりにも危険すぎる。


「なん、でもない」


なんとか笑みを浮かべていつも通りに答えた。なーんだ、とすぐに興味をなくした皆は、昨日見たバラエティ番組について話し始める。

バクバクと心臓がうるさい。

どうする? どうすればいい? とりあえず薫先生や禄輪さんに相談して、でもまだこれは私の憶測段階でしかないわけだから。でも私一人で抱え込むにはあまりにも。

みんなの背中が遠ざかっていき、慌てて追いかける。焦ってから回る足がもつれた。咄嗟に伸ばした手が何かを掴む。

掴んだのは誰かの白衣の背中だった。


「急になんだよ」


不機嫌そうな声で振り返ったのは恵衣くんだった。

私を見下ろしてギョッとした顔をする。


「ご、ごめん」


慌てて手を離すと、今度は恵衣くんは私の手首を掴む。そして「ちょっと来い」とだけ言うと校舎とは反対の方向に向かって歩き出した。