神々廻芽の目的はなんなんだろう? 彼自身は薫先生や嬉々先生に危害を加えるつもりはないと言っていたから、彼は明確に狙いがあってあんなことをしたんだろう。
一度目は一学期。神修内に封じられた空亡の残穢の封印場所を、神職のひとりに破らせようとした。直前で私たちによって発見され事なきを得たけれどもしあれが破られていたら、神修やまねきの社の敷地内にいた人たちは無事ではすまなかったはずだ。
二度目は二学期。学生を騙して神修の寮内に応声虫を持ち込ませ、神職の命である声を次々と奪っていった。幸いなことに薬学に精通している亀世さんの知識と技術おかげで大事に至らずに済んだけれど、神々廻芽の発言では神職や学生たちが声が出ない状況になってから奇襲することを考えていたらしい。
そのふたつに共通すること────神修の学生が、狙われている?
走馬灯のように次々と過去の記憶が巡っていく。
『巫寿さん、私は唯一あなたの存在を恐れていたんです。でも、大したことは無かったようですね。これなら、簡単に始末できそうだ』
『でも、俺は君に絶望して欲しいんだ。悲しくて辛くて怖くてひとりぼっち。希望も夢の未来もない。やがてどんどん己の中の呪が増幅して、負の感情に支配される……そうなった君は、とても弱い』
もしかして、でもそんなまさか。だって私が彼と知り合ったのは一年前、顔を合わせたのも口を交わしたのも片手で数えられるくらいしかない。恨みを買う理由なんてこれぽっちもないはずだ。
でもこれは、もしかすると。いいや、もしかしてなんかじゃない。間違いなく神々廻芽は────。
体の中心で小さく身を潜めていた恐怖心がぶわりと膨らみ全身が粟立つ。膝を抱える両手ががたがたと震えた。



