「慶賀坊ちゃん、お疲れでしょう。学校へは夕飯を食べてからお戻りになったらどうです」
「おいジイちゃん、友達の前で坊ちゃん呼びやめろって言ってんじゃん。もうそんな歳じゃないし」
「私の中ではいつまでも坊ちゃんですから」
ほほほと笑う神職さまに、やっと慶賀くんの顔に笑顔が少しだけ戻る。
それにしても。
「慶賀くんのおじいさんだったんですね」
坊ちゃんって呼んでいるから、てっきりお手伝いさんかここの神職さまだと思っていた。
振り返った二人が不思議そうな顔で私を見た。
え……? 私、何か変なことを言っただろうか。
「ああ、そっか。ジイちゃんって聞いたら、確かにそう思うよな」
慶賀くんがおじいさんの横に並んで手を差し出す。
「こちら柳滋伊さん。うちの分社の宮司を任せている神職な」
「じい、さん?」
「そ。滋にイタリアの伊で滋伊」
滋にイタリアの伊で滋伊。
ぽん、と手を打ち思わず大きな声で「なるほど!」と頷く。
滋伊だから、ジイちゃん! 紛らわしいけど親しみがあってなんだか微笑ましい。
私のリアクションが気に入ったのか慶賀くんは声を上げてけらけらと笑う。



