社務所の裏側はこの社を管轄する家の自宅になっているらしい。引き戸の横には表札があった。ちらりと見えた苗字に目を見開く。
慶賀くんは迷うことなく引き戸を開けると靴を脱ぐのももどかしそうに、前のめりで框を登る。
一瞬このまま無断でついて行ったら失礼なのではと迷ったけれど、むしろここに取り残される方が後々面倒なことになりそうなので慶賀くんの後に続いて玄関に上がった。
お家の中はかなり広くてずっと奥まで続く廊下を、慶賀くんは迷うことなく進んだ。和洋折衷な雰囲気のお家で、廊下に並べられた調度品はおそらくアンティークと呼ばれるものなのだろう。
ずんずん進んでいく慶賀くんは途中で階段を昇って二階へ進んだ。また長い廊下を進みながら徐々に小走りになる慶賀くんを必死に追いかける。
足は勢いを弛めることなくある部屋に直進した。勢いよく襖を開けると、中にいた人たちが驚いたように顔を上げる。
「慶賀坊ちゃん……!」
紫色の袴をみにつけた年配の神職さまがそう声を上げる。
慶賀くんは滑り込むように何かの前に膝をついた。何かは布団だった。たくさんの人が布団を囲むように座っているのでよく見えなかったけれど、膨らみは見えた。誰かが眠っているんだろう。
「賀子の具合は!?」
今にも泣き出しそうな声でそう尋ねる。
「神職一同で祓詞を奏上し、先程やっと落ち着きました。けれど油断は出来ない状況です」
呆然と神職さまの顔を見つめる慶賀くんの肩を男性と女性が抱きしめる。



