「黒狐の一族は好戦的なので有名なんよ。先の戦でも一族の半数以上が野狐落ちして、空亡側についた一族でもあるし……」
確か瓏くんの両親を殺害して瓏くんを攫ったのが黒狐族だったはずだ。
小声で慶賀くんに「ヤコって何?」と尋ねる。悪いことをして一族から追放された妖狐の総称らしい。
「戦が起きると、人の中にある呪が高まる。呪が高まると攻撃的になる。そうしてまた別の場所で争いが起こる。ほんま、馬鹿げてるわ」
おばさんはまだ残っている顔の痣をそっと撫でる。息子さんが励ますようにその肩を優しく揉んだ。
静かな病室に着信を知らせる電子音が鳴り響く。
「っと俺だ。悪ぃ巫寿ちょっと出てくる」
スマホを片手にいそいそと部屋を出ていった慶賀くん。
壁の掛け時計を見上げるとあと一時間ほどで部活が始まる時間だ。そろそろ鞍馬の神修へ帰った方がいいだろう。
「そろそろ私たちお暇しますね。お大事になさってくださいね」
「おおきにな巫寿さん。鬼市さんにもよろしゅう伝えといて」
はい、と頷き使ったパイプ椅子を畳んで壁に立てかける。
おばさんはおそらくお見舞いで貰ったであろう茶菓子をポイポイと袋に詰め込み「これ持って帰るとええわ」と渡した。
帰ったらみんなで分けよう。
丁寧に頭を下げて、他の患者さんたちにも挨拶をして病室を出る。



