紫暗の靄が渦巻いていた痣が以前に比べると格段に小さくなっている目元が鏡に映り、おばさんは嬉しそうに目尻を下げた。

手鏡を膝の上に置くと「ほんまおおきに、巫寿さん」と私を見上げて微笑む。


「お加減いかがですか? 先生からは視力もかなり回復していると聞きました」

「絶好調やわ。ずっと刺すような痛みもあったんやけど、巫寿さんに祝詞奏上してもろてからはピタリと止んでな」


お見舞いに来ていた息子さんが、引き出しにお母さんの服をしまっいながら「前よりうるさぁて適わんわ」と舌を出す。この子はホンマ、とおしりを叩かれて楽しそうに声を上げる。


「ホントすげぇよな、巫寿」


椅子の上にあぐらをかいて見学していた慶賀くんがそういう。


「私と言うより、祝詞が効果的だっただけだよ」

「まーた謙遜して。言祝ぎを口にしろって」


言祝ぎを口にしろ、何度も皆からそうダメ出しされるのに一向に変わらない自分が情けない。

苦笑いで頬をかいた。


「それにしても……私らのためとはいえこんな時期に幽世に来るなんてちょっと危ないんちゃう?」


不安そうに眉をひそめたおばさん。


「危ない?」

「ほら、赤狐族と黒狐族の戦が始まったって話やろ」


もう八瀬童子族の里にも開戦の話は届いていたらしい。

私も聞きました、と答えればおばさんは不安そうな視線を窓の外に向けた。