禄輪さんが空亡戦終結後、十二年間にわたり現世を不在にしていたという話は聞いたことがある。
終結後本庁から託された任務は禄輪さんではないと対応できないもので、戦で被害を受けたほだかの社に戻るまもなく幽世へ派遣されたのだとか。
でも幽世と現世は遠いように見えて案外隣同士だ。どうして禄輪さんは十二年間も帰って来れなかったんだろう?
私の考えを見透かしたように禰宜が続けた。
「現世と幽世を繋ぐ鬼門が破壊されたことで、悪意ある妖らが現世へ自由に流れ出ていきました。禄輪どのはそれを防ぐために、毎日幽世を歩き続け鬼門に応急処置用の結界を張ってくださったんです」
「張って歩いたって……あの量の鬼門にですか?」
思わず目を剥いてそう尋ねた。
社のあるところには必ず鬼門がある。その量は両手両足で数え切れるような数字ではないはずだ。
「ええ。もはや同じ神職とは思えませんよね。私は、禄輪どのは人の子の中で神に一番近い存在なのではと思っております」
尊敬の眼差しでグッと拳を握った禰宜がそう熱弁する。
禄輪さんが十二年という年月を不在にしていた理由が明らかになり、私はやはり言葉が出てこなかった。



