騒ぎを聞き付けた八瀬童子一族の頭領鬼三郎(きさぶろう)さんに診てもらった女性は、結果的に呪いを完全に祓えていた訳ではなかったらしい。

ただ、鬼三郎さん曰く"100あったものが80まで減少した"おかげで呪いのせいで見えなくなっていた目が見えるようになったらしい。私が作った祝詞が呪いの祓除に効果的であることが分かった。

今後の治療について協力を求められ、もちろん二つ返事で引き受けた。


女性とお兄さんからは「ありがとう」とおいおい泣かれ、養生所の医者さん達からは「卒業後はうちで働かないか」と熱烈な勧誘を受けた。神職さまたちからは作った祝詞について色々と尋ねられたけれど、専門的な質問すぎて結局ほぼ来光くんに答えてもらった。

そんなこんなでバタバタと一日が終わり、鞍馬の神修に戻ってきたのは日がすっかり高くなった頃だった。あと数時間すれば学校が始まる。

昼夜逆転生活にすっかり慣れた私達は、眠気と戦いながら何とか各々の部屋へ別れた。

服もそのままで布団に倒れ込む。まるで泥の中に沈みこんでしまったかのように身体が重い。


濃い二日間だったな、と息を吐いた。


八瀬童子の里へ向かうはずが叔父さんに半ば無理やり両親の実家へ連れて行かれて、そこで両親が実は義兄妹だということが発覚し、お兄ちゃんが乱入。

八瀬童子の里では鬼子ちゃんとの関係がさらに悪化して、解呪不能な呪いを偶然にも祓えてしまって。


「あれ……でもそう言えば」


パチリと目を開けて、自分の作った例の祝詞を思い出す。

あの祝詞の効果は、主に平癒と厄除け。厄除けは呪いを剥がす事は出来ても、祓うことはできないはずだ。

実際に私が方賢さんに試した時は、剥がした呪いは呪いを仕掛けた嬉々先生に跳ね返った。


でも今回、あの女性を診た鬼三郎さんは「100あっものが80まで減った」と言った。つまり、呪いは剥がれた訳ではなく消滅したということだ。