呆然とした表情で女性が呟いた。何度かゆっくりと瞬きした女性は、ゆっくりと顔を上げると眩しそうに目を細めて辺りを見回す。確かめるように私達と目を合わせ、一点で動きを止めた。
「あんた……角丸、よな?」
「母ちゃん……?」
お兄さんは零れ落ちそうな程に目を見開いて震える足でベッドに歩み寄った。
「……ああ、あん時コケてできた傷、跡が残ってしもたんか」
女性は愛おしそうにお兄さんの額をそっと撫でて大粒の涙を浮かべた。お兄さんは信じられないというような顔で女性の手をそっと握って顔を覗き込む。
「う、嘘やろ? 見えんのか? 母ちゃん、目が見えんのか!?」
「見える、ちゃんと見える。あんた、しばらく見んうちにこんな大きなったんやな」
わっと声を上げて泣き出したお兄さんの背中を呆然を見つめる。
えっと、つまりこれって────。
となりの鬼市くんを見上げると、驚愕の表情で私を見下ろしている。名前を呼ぼうとした次の瞬間、驚愕の表情のまま両手を広げた鬼市くんはそのままがばりと私を抱きしめた。
私が声を上げるよりも先に、「うわぁああッ」と声を上げた皆が駆け寄ってきて私の背中をバシバシと叩いた。泰紀くんなんて慶賀くんを肩に担いで「わっしょいわっしょい」と神輿上げを始める。
病室内はあっという間にどんちゃん騒ぎになる。
そしてお祭り騒ぎは、お医者さんたちが「何事だ!?」と飛び込んでくるまでしばらく続いた。



