思い出したことがある。

思えば私は一年の時、まだ「呪法」を習う前の時点で呪いを一度だけ祓った事がある。祓ったと言うよりかは呪いを持ち主に返した、という表現の方が正しいのだけれど、持ち主に返すのも祓いのうちに入るらしいので間違いではないだろう。

あの時は正しい対処方法なんて知らなかったから、呪いの正体を突き止めることもせず本当にただ祝詞を奏上しただけだ。

一年生の一学期。空亡の残穢を封印する結界を破ろうとして、腕に呪いが跳ね返った方賢さん。事情を知らなかった私はその呪いを祓った。

すっと短く息を吸い込む。


「懸けまくも畏き大国主神《おおくにぬしのかみ》よ」


部活動見学で究極祝詞研究会に参加した時に作った、短くて難しい言葉も少なくて万能な祝詞。

女性の顔の包帯から光のつぶてが染み出す。


「恐み恐み謹んで吾大神《あがおおかみ》の大御稜威《おおみいづ》を蒙《かがふ》り奉る────」


小さな粒は集まって一つの塊になった。日の入りのような強い光を発すると、溶け込むように包帯の奥に吸い込まれていく。やがて光が収まって、病室はしんと静まり返った。


「ど……どうでしょう?」


恐る恐る尋ねた。女性は固まったまま身動き一つしない。ドキドキしながら動向を見守っていると、女性がゆっくりと包帯に手をかけた。スルスルと解かれていき、呪いのせいでどす黒い色に染まった肌が現れる。

やっぱり私の祝詞程度じゃ効果がなかったんだ、と肩を落としたその時。


「見える……」