窓を開けた瞬間に吹き込む風のような心地よさが部屋中を包み込む。

ほう、と身体の力を抜くようなため息が聞こえた。


「────ほんまおおきに。いつもよりも体が軽なったわ」


包帯で見えないけれど嬉しそうに目を細めたのが分かった。

「俺もや」「うちもうちも」と他の患者さんたちも口々にそう言う。祓詞はちゃんと効果があったようだ。私達は顔を見合わせてにっと笑い拳をぶつけ合う。


「それにしても、呪いの正体が分からないのは厄介だね」


メガネを押し上げて腕を組んだ来光くん。そうだね、と相槌を打つ。

頭が痛い時に咳止めを飲んでも意味がないのと同じで、適した対処をしなければ解呪にはならない。今回のように緩和は出来ても、その場限りの効果があるだけだ。

何にでも効くような万能な祝詞があればいいんだけど。

万能な……祝詞?


「あッ!」


突然声を上げた私に驚いた皆が飛び跳ねて振り返る。


「な、なんだよ巫寿ビックリするだろ!」

「ご、ごめん。ちょっと思い出したことがあって」


胸の前で小さく拝みならそう伝える。

思い出した事?と皆は怪訝な顔をした。


「もう一つ、祝詞を奏上してもいいですか?」

「もちろん構わんけど……」


首を傾げた女性に頭を下げて前に立つ。姿勢を正して心を落ち着けて、柏手を打ち鳴らす。