子供たちが出ていって一気に静けさを取り戻した病室。
「えっと、それで私は何をしたらいいの?」
「俺と一緒に祓詞を奏上してくれ。それだけでいい」
本当にそれだけでいいんだろうか?と不思議に思いつつ、鬼市くんの言葉に従う。俺らも手伝う?という嘉正くんの提案により、みんなで祓詞を奏上する事になった。
大部屋を囲うように壁際に立った私達。「じゃあ始めます」という鬼市くんの合図とともにキレのある柏手がそろった。
奏上するのは祓詞、罪穢れを祓い流す禊の言葉だ。
「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神たち────」
私達の声が重なって響く。目に見えないけれど、言霊が部屋の中で渦を巻いているのが感覚で分かる。
この祝詞の前半は、神々に呼びかける言葉。
口に出してお名前をお呼びすることも恐れ多い伊邪那岐の大神、筑紫にある日向の橘という所の小さな水門のそばにある阿波岐原で罪穢れを除き清めなさった時にお生まれになった祓戸の神々よ。
そして後半で、呼びかけた神々の力をお借りして不浄を祓う。
「諸々の禍事罪穢有らむをば 祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと 恐み恐みも白す」
すべての悪いこと、災いを招くこと、不浄なものがあるのだとしたら、それらを除き清めていただきますようお願い申し上げます。



