「鬼市くん……ここにいる方達は?」
そっと耳打ちすれば鬼市くんが顔を寄せた。
「空亡戦や戦で呪いを受けた人達だ。受けた呪いが解呪できなくて、ここに入院して保存療法を続けてる」
「解呪が、できない……」
そう繰り返し言葉を詰まらせる。
呪いを解くにはまず呪いを特定し、特定した呪いに適した祝詞を奏上する必要がある。それもただ奏上するだけではなく、呪いを放った相手が使用した呪を上回る言祝ぎを必要とする。
つまりここにいる人たちは誰にも解くことが出来ないほど強い呪いをかけられているということ。
呪いは治らない病なのだと、呪法の科目担当である嬉々先生が言っていた。適切な処置を施さなければどんどん命を蝕んでいく。
ベッドに横たわる女性は、顔から首にかけて何重にも包帯が巻かれている。襟元から少し見えた肌はまるで壊死したようなどす黒い肌が見えた。
「お前ら! まーたここを遊び場にしてんのか!」
入口から顔を覗かせたのは私たちよりも二三年上の風貌をしたお兄さんだった。鬼市くんの姿を見つけるなり「おお!」と親しげに手を挙げたので里の人なのだろう。
真っ直ぐ女性の元に歩み寄り手を握る。
「母ちゃん来たで」
「ああ、この声は。毎日おおきにな」
「おう。お頭からお下がりの林檎もろだけど今食うか?」
「ええね、貰おかな」



