子供たちは無邪気に鬼子ちゃんにじゃれつく。
「鬼子ちゃんが宮司さまに選ばれてお頭になったら、庇角院のお風呂をおっきくしてくれるんやろ!」
「うちベッドもほしい!」
「おれはもっとお菓子が食べたい!」
そうね、とどこか思い詰めた顔をした鬼子ちゃんは弱々しく呟く。
「選ばれんくても、鬼市くんのお嫁さんになったらええねん! そしたら鬼市くんに頼めるやろ!」
一人の女の子がそう言って鬼子ちゃんの顔が固まった。私はヒュッと息を飲む。
まるで急速冷凍が開始したかのようにその場の空気がゴオオッと凍った。文鬼先生だけがほほほと呑気に笑っている。
絶対にいま触れちゃいけない話題だった。
「────そうね。でも鬼市さんは悪い女狐に騙されているから、まずはその女狐を何とかしないと」
ギロりと睨まれた。間違いなくただの狐の話ではない。
「キツネ〜? だったらテッポウで狩ればええやん!」
「あら名案ね」
迷案の間違いではなかろうか。
全然笑っていない目で口元だけを描いた鬼子ちゃんと目が合い、ぎこちなく笑い返す。
まさか本気じゃないよね……?
本当に悠長なことは言ってられない、と身を引きしめる。この帰りにでも鬼子ちゃんとしっかり話をしよう。



