玄関には向かわずそのまま庭へ回った鬼子ちゃんについて行くと、賑やかな声が聞こえてきた。
角を曲がるとたくさんの子供たちが庭で遊んでいる姿がある。子供達のひとりが私たちの姿に気が付き「アッ」と声を上げた。
「鬼子ちゃんやーッ!」
嬉しそうに目を輝かせたその子は一目散にすっ飛んでくるとそのまま鬼子ちゃんに飛び付いた。よろめくことなく受け止めた鬼子ちゃんは見たことも無いような満面の笑みでその子供を抱き上げる。
「ただいま」
「おかえりー! もう冬休み始まったん!?」
「もう、昨日も言ったでしょ? 宮司に呼ばれて帰ってきてるだけだって」
「そうやっけー!」
鬼子ちゃん鬼子ちゃん、とあっという間に彼女の周りは子供たちで囲まれる。
冷たい態度しか取られたことのない私としては、笑顔で愛想よくお喋りしている鬼子ちゃんが信じられない。
「なんですかその顔」
呆然としていると睨まれた。慌てて首を振る。
「賑やかやと思ったら鬼子か」
そんな声とともに縁側に現れたのは七十くらいのおじいさんだ。
鬼子ちゃんは嬉しそうに目尻を下げて頭を下げる。
「文鬼先生、お客さまです」
「なんや、また昨日のやつらか?」
文鬼先生と呼ばれたその人は私と目を合わせる。目が合うと目尻の皺を深くして微笑んだ。慌てて「初めまして」と頭を下げる。
「上がってもらい。冷蔵庫にプリンあるし、それも出したらええわ」
「いえ。そんな気遣いは無用です」
そう答えたのは私ではなく鬼子ちゃんだ。ふん、と鼻を鳴らしそそくさ縁側から中へ入っていった鬼子ちゃん。
それって本来、私が言うべき台詞なのでは……?
首をひねりながらその背中に続いた。



