「遅い。他にやることがある私がわざわざあなたのために時間を使っているんです。申し訳ないと思わないんですか」


待ち合わせ場所である社の鳥居の下。

約束の五分前に到着すると既に待っていた鬼子ちゃんに切れ長の目でじろりと睨まれた。


「でもまだ五分前────」

「喋ってないで足を動かしてください」


ダメだこりゃ、完敗だ。口を挟もうとすれば遮られ、私の話には一切耳を傾けてくれない。まずは口を聞いてくれる程度に打ち解けないと。

スタスタ先を歩く鬼子ちゃんの背中を慌てて追いかけた。


私のことは嫌いでも、鬼市くんから任された仕事はきっちりこなすつもりらしい。無駄話は一切しないものの本殿や神楽殿、里の共用施設などを丁寧に説明してくれて、私の質問に対しても分かりやすく簡潔に答えてくれた。

幽世に住む妖は、基本同族とひとつの里を築きひとつの社の宮司が長となり里を収める。今は鬼市くんの父方の伯父が八瀬童子の宮司であり頭領だ。次の宮司はまだ神託が降りていないので、鬼市くんと鬼子ちゃんそして初等部に通う男の子が宮司候補として神修に通っているらしい。


「ここが庇角院(ひかくいん)です」


ぐるりと里を一周して、最後に社の裏手にあった大きな一軒屋に案内された。


「庇角院?」


鬼子ちゃんは門の隙間から手を入れてかんぬきを開けると迷うことなく中へ足を踏み入れた。