不安げな顔のお兄ちゃんに微笑む。
「私を愛してくれたのは、守ってくれたのは、お父さんとお母さんだから。過去に何があろうと、私は二人が大好きだよ」
目を瞠ったお兄ちゃん。瞳に水の膜が張る。赤い鼻をスンと鳴らして少し照れ臭そうに首を摩った。
「俺もだよ。大切な家族、ただそれだけだ」
「うん。ただそれだけ、だね」
顔を見合せた私たちはどちらからともなくくすくす笑った。
「お父さん達や椎名家との確執はよく分かったんだけど、お兄ちゃんの気持ちはどうなの? うずめの社ってかなり大きい社だし……」
「今更擦り寄ってくるジジィ共の相手なんてしないよ。金にも困ってないし、そもそも俺はこの界隈にどっぷり浸かるつもりはないからね。これまでと変わらず神職の任務は暇な時に貯金用の金を稼ぐための副業、本職の企業務めを続けるよ」
そんな名目で神職の任務を引き受けているなんて、きっとお兄ちゃんくらいだろう。
もうちょっとで三千万貯まりそうなんだよなぁ、とこぼしたお兄ちゃんに思わずゴボッとむせた。
単純計算すればお兄ちゃんは副業で月五十万は稼いでそっくりそのまま貯金していることになる。実力がある神職ならフリーの方が稼げるという話を聞いたことがあるけれど、まさかそれほどまでだったとは。
これで副業なのがまた恐ろしい。
「お兄ちゃんって貯金とかちゃんとしてたんだね」
「当たり前だろ。巫寿がおばあちゃんになるまで養うつもりなんだから」
そんなん当たり前だろ、とまるで私が間違っているかのような顔で言い切ったお兄ちゃんに思わず天を仰いだ。



