養子になったからと言って、あくまで分家から引き抜かれた子供という立場のお父さんは、名目上お母さんの兄になったけれど実質はお母さんの付き人のような立ち位置だったらしい。
そんな生活にも文句ひとつ言わず、倭舞の稽古とお母さんのお世話に勤しんだお父さん。しかし数年後、お母さんの弟である和来おじさんが生まれたことでお父さんは椎名家にとって厄介な存在になってしまった。
これまでも良い待遇ではなかったけれど、それを機に拍車がかかった。流石のお父さんもこれには堪えたらしい。そんな時にそっと寄り添ったのがお母さんだった。
そうして苦しい時期を手を取りあって乗り越えた年頃の二人。恋心が芽生えるのは自然なことだったんだろう。二人は誰にも言わずにひっそりと愛を育んだ。
そこからは両親が結婚するまでの話は、以前禄輪さんに教えて貰った通りだった。
「……だから半分正解で半分間違いってわけ」
一通り話し終えたお兄ちゃんは深い息を吐いた。
あの時、禄輪さんがなぜ両親は結婚を反対されていたのか教えてくれなかった理由がやっと分かった。
「分家って言っても、是枝家はもうほとんど血の繋がりはないような家だよ……って言ってもやっぱショックだよな」
苦笑いをうかべたお兄ちゃんに小さく首を振った。
「確かにビックリしたけど……ショックだとかは思わないよ」
それは間違いなく本音だった。
確かに兄妹と聞いて凄く驚いたけれど、お父さんとお母さんが結ばれてなかったら私は今ここにはいない。
私にとってはお父さんとお母さん、それ以上でも以下でもない。



