鬼市くんが用意してくれたのは離れの一番奥にある空き部屋だった。
「じゃあ俺はこれで。何かあったら呼んでください」
「ありがとな鬼市」
「いえ、祝寿お兄さま」
すっかり祝寿お兄さまが定着した鬼市くんに頭を抱える。むず痒いから本当にやめてほしい。
出してもらった座布団に腰を下ろした私達は、僅かな気まずさを抱えてお互いに向き合った。
「えっとそれで……父さんと母さんのことな」
気まずい沈黙を破るようにお兄ちゃんが口火を切る。
「結論から言うと、兄妹ってのは半分正しくて半分違う」
曖昧な言い方に眉根を寄せた。
「母さんは椎名家の長女で、父さんは椎名の分家から椎名家に養子に入ってる。つまり義兄妹ってこと」
想像もしなかった両親の出自に言葉が出てこなかった。
お父さんとお母さんが、義兄妹。
お兄ちゃんは話を続けた。
曰く、椎名家長女であるお母さん・椎名泉寿が生まれてから数年、男児どころか子供に恵まれなかった祖父母は倭舞の後継者をどうするかという問題に頭を悩ませていたらしい。
うずめの社の倭舞は創建時から椎名家が受け継いできた歴史ある舞、自分たちの代で他の一族に譲る訳にはいかないと考えた祖父は椎名の分家である是枝家から当時お母さんと歳も近く成績優秀だったお父さん・是枝一恍を養子に迎え入れたらしい。



