空いたピッチャーを片手に厨房に顔を出す。

電気が落とされていて、非常口の青い光がぼやんと足元を照らす。流石に心もとないので壁を探り当てて電気をつけた。

明るくなると同時に突然現れた人影に「ひっ」と声を上げた。流し台に手を付き項垂れたその人がゆらりと顔を上げる。


「ああ……巫寿ちゃんか……」

「せ、聖仁さん! びっくりしました、電気も付けないで何してるんですか……?」

「喉乾いたから、お茶を貰いにね」


そう言いつつコップも出されていなければ、お茶も用意していない。

怪訝に思いながらも冷蔵庫を開けて新しいピッチャーを拝借する。空になった容器は流し台に置いておけば翌日洗ってもらえるので、流し台で項垂れる聖仁さんにそろ〜っと歩み寄る。

背中から漂う悲壮感がすごい。


「ねぇ……巫寿ちゃん」

「は、はい……?」

「俺、何かしちゃったのかな」


え?と目を瞬かせる。


「心当たりはあるんだ。看病って言いながら嫌がる瑞祥に色んなことしてもらってさ」


そういえば入院中ベッドサイドに座らせて「あーん」とかしてもらってましたね。

他にも色々させてたんだ、とちょっと遠い目をする。


「瑞祥が口をきいてくれないんだ。俺の顔見た途端すぐにどこか行っちゃうし、明らかに素っ気ない気がする。間違いなく嫌われたんだ」


紫色のオーラを見に纏わせた聖仁さんが深い息を吐く。

こっちもか、と天を仰いだ。