「あの」


ずっと黙っていた鬼市くんが前に出た。


「だったら俺の里で話したらどうですか。鞍馬の神修に戻るより近いし、人払いもできますけど」


お兄ちゃんが警戒するように鬼市くんを睨みつける。


「そう言えばお前ずっと巫寿と一緒にいたみたいだけど、一体何者だ?」


値踏みするように上から下まで鬼市くんを見る。お兄ちゃんの失礼な態度にも顔色を変えず、冷静に「初めまして」と頭を下げた。

鬼市くんの方がよっぽど大人だ。


「ちょ、ちょっとお兄ちゃん。鬼市くんは私の友達なの。私のことを心配してついてきてくれたんだよ。手を掴まれた時も助けてくれて……だからそんなに睨まないで」

「そうなのか? よし鬼市、特別に祝寿お兄さまと呼ぶことを許す」

「ありがとうございます、祝寿お兄さま」


ちょっと!と私が声を上げると、お兄ちゃんは楽しそうにからからと笑う。

いつもと同じくだらないやり取りのおかげか、張りつめていたものがふっと緩む。

行くかとお兄ちゃんが私の肩を叩き、私たちは歩き出した。