「巫寿を返してください」


お通夜よりも重苦しい夕食の席は、颯爽と現れたお兄ちゃんによって変わった。

事態を把握するよりも先に勢いよく手首が掴まれて、転びそうになりながらも何とか立ち上がる。怖いくらいの低い声で「帰るよ」と言ったお兄ちゃん。


「巫寿!」


鬼市くんが慌てて私の反対の手を掴んだ。

鬼市くんはお兄ちゃんの顔を知らないから、また私が攫われると思ったんだろう。


「だ、大丈夫! この人私のお兄ちゃんだから……!」


咄嗟にそう答えると、鬼市くんはひとつ頷いて立ち上がった。


「君が祝寿か」


ずっと黙っていたおじいちゃんが口を開いた。お兄ちゃんの足がピタリと止まる。


「……俺に話があるのなら、俺に言えばいいでしょ。妹を巻き込まないで下さい」

「うずめの社の倭舞を継げ」


お兄ちゃんの肩がぴくりと跳ねる。おじいちゃんのその一言だけで全てを理解したらしく、ギュッと眉間に皺を寄せて険しい顔で振り返った。


「寝言は寝て言ってもらえますかね」


お兄ちゃんが大股で歩き出す。


「お前が話を聞くまでは、妹をこの社に呼び出す」


お兄ちゃんがまた足を止める。

肩が怒りで震えている。怖いくらいの鋭い雰囲気をお兄ちゃんから感じる。