今は亡き人を冒涜するような言い方に、ギュッと唇を噛む。
「私のお母さんとお父さんは────ッ、」
お父さん、私がそう口にしたその瞬間、落ち着いて話していたはずの和来おじさんの雰囲気がナイフのように鋭いものになった。
あまりの豹変ぶりに思わず息が詰まる。
「あの男の話は、するな」
たった一行、でも有無を言わせない迫力に返す言葉が出てこない。
「あの男が……一恍兄さんが椎名家をめちゃくちゃにしたんやぞ」
にいさん、と聞いて一瞬混乱したけれど直ぐに「義兄さん」と漢字変換が出来た。
結婚後は相手方の兄弟をそう呼ぶしおかしくは無いはずなの、違和感が拭えない。その声に義兄以上の親しみが籠っているように思える。
「お父さんが、一体何を……」
そう尋ねた私の声が震える。
和来おじさんは怒りに燃える瞳で私を睨みつけた。
「あいつは、妹に手ぇ出したんやぞ」
触れてはいけない大切なものに触れるような緊張感と、未知のものに対する恐怖心が入り交じる。
心臓は徐々に鼓動を早めた。



