こっちや、と案内されたのは母屋の一室だった。乾いた空気に交じってほんのりと遠くで香る花の匂いに奥底の記憶が撫でられる。
格子窓から差し込む日差しが柔らかく室内を照らす。梅の花のカーテンが揺れて、文机にはウサギやクマのお手玉が飾られていた。深い焦げ茶色の洋服ダンスは取っ手が桜の形で、側面には細やかな彫刻が施されている。
質素な部屋ではあるのだけれど家具の一つ一つが可愛らしい。
なんというか、
「前住んでた家に、似てる……」
ぽつりとそう呟く。
私は全く覚えていないのだけれどもともと私たち家族は一軒家に住んでいたらしい。今のアパートに移り住んだのは両親が亡くなってからだ。
前の家はアルバムでしか見た事がないのだけれど、写真に写る我が家は確かこんな感じでシンプルだけど可愛らしい印象だった。
「そらそやわな。ここは泉寿の部屋やし」
「えっ、ここお母さんの部屋なんですか?」
和来おじさんはひとつ頷いて中へ促した。
お母さんは専科を卒業してからお父さんと結婚した。だからもう20年以上も前に使われなくなったはずなのに、この部屋は埃ひとつないどころか居心地の良さまで感じる。
おそらく誰かがこの部屋をこまめに掃除して大切にしてくれているんだろう。
和来おじさんが部屋の真ん中に座ったので、その前に正座した。



