お兄ちゃんの名前はさっき伝えたんだけどな、と少しうんざりした気分で「椎名祝寿です」と応える。するとおばあちゃんは申し訳なさそうな顔をして小さく首を振った。
「お兄ちゃんの名前じゃなくて、あなたのお名前を教えてくれるかしら」
「あ……」
冷たい口調で言ってしまった事をすぐに後悔した。申し訳なさで声が小さくなる。
「巫寿です」
「ミコトちゃん。漢字はどう書くの?」
「巫に寿で巫寿です」
「そう……素敵なお名前ね。巫寿ちゃん……本当に可愛らしい名前だわ」
噛み締めるように私の名前をくりかえすおばあちゃんに困惑する。
「夫が失礼な態度を取ってごめんなさいね」
まさか謝罪されるとは思っていなくて、心の中にあったもやもやは一瞬で萎んでいく。深々と頭を下げたおばあちゃんに慌てて駆け寄って「気にしてませんから」と肩を抱き起こす。
顔を上げたおばあちゃんの瞳には涙が溜まっていていっそう困惑する。
「私、本当に巫寿ちゃんに会いたかったの。大変な時期に手を貸さず、幼いあなた達兄妹のことを何年も放っておいて、何を言ってるんだと思うかもしれないのだけれど……」
震える手が重ねられた。かさついた皺だらけの手が私の手の甲をそっと撫でる。
「本当に、あの子にそっくりね」
みんなが口を揃えて母に似ているという私の目を、愛おしそうに覗き込む。
少なくともおばあちゃんは悪い人ではないような気がした。



