「巫寿!?」


少し前に別れた鬼市くんが人垣をかき分けて現れた。

私の手首を掴む男性と足を踏ん張る私を見てすぐに状況を察したらしい。駆け寄ってくると勢いよく男の手を捻り上げ私を背中に隠した。


「おい不審者、彼女をどこに連れて行くつもりだ」


ぶるぶる震える鬼市くんの手、男性は狼狽える様子もなく正面から鬼市くんを見据えた。


「俺は不審者じゃない。この子と関わりのある人間や」


そうなのか、と鬼市くんが振り返る。ぶんぶんと首を振った。

人の顔を覚えるのは得意な方だ。一度会ったことのある人の顔は滅多に忘れたりしない。この人の顔は面で見えないものの、纏う雰囲気や話の内容から間違いなく今日が初対面だ。


「彼女はこう言ってるが」


鬼市くんが全身で警戒しているのがびりびりと伝わってくる。一触即発な雰囲気に胸の前で手を握りしめた。


「確かに会った事はない。でも間違いなくその子と俺は知り合い────親戚や」


ばくん、ばくん、と少しずつ鼓動が速まっていく。

男性が小さく息を吐いた。鬼市くんに掴まれていない方の手でゆっくりと面に手を伸ばす。わずかに浮かせた面の下から、大きな人懐っこい雰囲気の目がこちらを見つめる。

この目を私は知っている。


「俺は椎名泉寿の弟や」