予想外の反応に困惑する。

私が椎名泉寿の娘だと名乗って驚く人は沢山いたけれど、すぐに皆「そうか君が泉寿さんの」と嬉しそうに話しかけてくれた。この人も十分驚いているけれど、どちらかというと動揺の方に近い。

どうしてそんなに驚いているんだろう?


「本当にあの椎名泉寿の娘なんか?」

「えっと、思い浮かべる人が同じでしたら……」


これまで会ってきた人達と反応が違いすぎて、少し自信が無くなってきた。もしかしたら別の椎名泉寿なのかもしれない。


「鼓舞の明を持っている……椎名泉寿か?」

「あ、そうです」


お互いに思い浮かべていた人物は同じだったようだ。念のため「父は椎名一恍と言います」と付け加える。その瞬間、男性の纏う雰囲気が瞬く間に鋭い物になった。

思わず息を飲んだ。あまりの豹変ぶりに困惑が隠し切れない。

男性がずんずんと大股で歩いてきて、ガッと私の両肩を掴む。思わず息を飲んだ。


「お嬢さん、俺と一緒に来てくれ」

「え?」


手首を掴まれたかと思うと強い力で引っ張られた。絡まりそうになった足を必死に動かし足を踏ん張る。


「あ、あの! いきなり何ですか? 困ります、離してください!」

「怪しい者とちゃう」


いきなり手を引っ張る時点で十分怪しい人だよ、と心の中で激しく突っ込む。

私が声を上げた事で「何だ何だ」と通行人たちが振り返る。