三十分後、再び広間に集まった私たちに鬼市くんは「はいこれ」と迎門(げいもん)の面を渡した。

迎門の面は現世と幽世を結ぶ鬼脈(きみゃく)に入るための通行手形で、切符の役割を持っている。

受け取りながら私だけが首を捻った。


「迎門の面?」

「学校が用意してくれてる面だから気にせず使っていい」


私が迎門の面の金額を気にしていると思ったのだろうか、鬼市くんがすかさずそう言う。

確かに迎門の面は一枚三万とかなり高額だけれど、私が気になるのはそこじゃない。


「あ、そうじゃなくて。八瀬童子の里ってそんなに遠いの?」

「いや、歩いて30分くらいだな」

「じゃあどうして迎門の面が必要なの?」


私の純粋な疑問に対して、みんなは目を瞬かせたあと小さくプッと吹き出した。


「そら妖の里なんやから、こっちにはないやろ」

「こっち? ────あっ!」


なるほど、そういう事か。妖の里、つまり八瀬童子の里は幽世にあるんだ。
だったら迎門の面が必要なのも納得がいく。


「幽世行くの久しぶりだなぁ」

「僕も中等部の時の社会科見学以来かも」


どうやら私以外の皆は幽世に行ったことがあるらしい。それもそうか。

鬼脈には何度か入った事があるけれど、その先である幽世へは初めて赴く。期待と緊張でドキドキと胸が騒いだ。


「幽世ってどういう場所なの?」


幽世へ向かうためにはまず鬼門(きもん)をくぐって鬼脈に入る。鬼門は基本的には正面にある鳥居と正反対の位置に立っている。

寮の外に出た私たちは鬼門を目指して歩き出した。