「とってないよ……! 完全に勘違いだから!」
「分かってるよぅ。巫寿ちゃん可愛いもんね、鬼子ちゃんの婚約者くんが勝手に巫寿ちゃんに惚れたんでしょ?」
間違ってはいないけれどそうだとも言い難い内容に顔を赤くして俯く。
聞いた話では鬼市くんと鬼子ちゃんは少し前まで婚約関係だったらしい。妖一族は早い段階から婚約者がいることが当たり前なのだとか。二人の場合は、親同士が酒の席で冗談交じりに交わした口約束程度のものだった。
事態が変わったのは去年の冬頃、鬼市くんが突然「お前と結婚はできない」と申し出たらしい。理由は「好きな子ができたから」。
それが、なんと────私らしい。
そして鬼市くんに婚約破棄されたのは私が理由だと思った鬼子ちゃん。実際のところは今年の春に赤狐族から鬼子ちゃんに婚約の申し入れがあって、それが婚約破棄の大部分を閉めている理由らしいけれど。
初対面の場で「貧相なちんちくりん」と言われた衝撃は今でも忘れられない。
『鬼市さんはあなたには相応しくありません。あなたが鬼市さんの婚約者だなんて笑止千万。身の程をわきまえてください』
そしてなぜか鬼子ちゃんのなかで婚約者に位置づけられた私は、それ以降突き刺さるような視線を浴び続ける日々が続いた。
一学期中は色々あって誤解を解くチャンスがなかったけれど、二学期こそは鬼子ちゃんの誤解を何としても解きたい。
「ああ、あともうひとつ」
鬼子ちゃんが遠くからこちらを睨んだ。



