場所を移動した私達は屋外演習場に集まった。始業の鐘は少し前に鳴ったのに、授業を始めない河太郎先生に私たちは首を傾げる。
「河太郎先生、授業しないんですか〜?」
「ウェイトアモーメンツ! 科目担当のティーチャーがまだカムしてないんだ」
なるほど、組討演習の先生は河太郎先生じゃなかったんだ。
どんな先生だろうねなんて来光くんと雑談していると、突然頭上から服のしわを伸ばす時の十倍くらい大きなはためく音が聞こえて、皆は何事かと顔を上げた。
私たちの顔に影が指す。それと同時に黒い何かが太陽を隠した。強い風が吹き付けて、瞬く間に空から降りてきたそれは軽やかな足取りで地面に着地した。
「すまんすまん遅れた。朝のホームルームが長引いてな」
バサバサと背中の黒い翼を軽く振ってしまったその人は、私たちの前に立った。
紫色の袴を身につけた男性だ鞍馬の神修の先生なんだろう。見た目は伍十代くらいで、至ってどこにでも居そうなおじさん。けれど、背中の真っ黒な翼が彼を妖たらしめる。
先生は前合わせを整えると私たちを見回した。
「えー、組討演習担当の天狗の妖、相模坊の飛扇だ。神修の皆、よろしくな」
相模坊というと八大天狗のひとり、白峰相模坊を先祖に持つ天狗の一族だ。人の姿に化けた天狗には会ったことがあるけれど、こうして翼で空を飛ぶ姿は初めて見た。
というか、飛扇先生って────。



