「でも何で急に?」

「そうですよ……! 今まであの顔と何十年向かい合ってきたんですよね」

「それが分かったら苦労しねぇーよ……」


へなへなと膝に顔を埋めた瑞祥さん。


「……ホントに、分かんねぇんだ。奉納祭の頃までは、そんなこと微塵も思わなかった。でもアイツが私を庇って大怪我した時、心臓の辺りがギューって痛くなってさ」


奉納祭の日のことを思い出す。

異文化交流学習で神修へ来ていた鞍馬の神修の学生の一人(ろう)くんは、千歳狐(ちとせきつね)と呼ばれる特別な妖だった。

千歳狐は非常に力が強く、瓏くんもまだ自分ではコントロールが上手くできないため呪印(じゅいん)を体に刻んで力を押さえ込んでいた。けれど奉納祭の最中に何かが起きてその呪印が解かれ、暴走してしまった瓏くん。

その時、瓏くんが放った怪し火から瑞祥さんを守るため、聖仁さんは大怪我を負ってしまった。


「聖仁が目を覚ました時言ったんだよ、"瑞祥が無事でよかった"って。その時から、アイツのそばにいると妙に落ち着かなくて、毎日アイツの事考えちまうんだ。普通に喋りたいけど、何でかめちゃくちゃ格好良く見えて、まともに顔も見れねぇし……」


そこまで話してポッと頬を赤くした瑞祥さん。

私は勢いよく口元を抑えた。そうしていないと変な声を上げて叫んでしまいそうだったからだ。

これって。これってもう間違いなく……!


「恋じゃんッ!」


盛福ちゃんがそう叫び、思わず足をばたつかせた。